「ワニの口」と同様、財務省が国家財政の危機を煽る指標の一つに「公債依存度」があります。
公債依存度とは歳入(年間収入)総額に占める借金の割合を表した指標で、財務省「日本の財政を考える」のページにて下図のように紹介しています。有名な「主な国の債務残高(対GDP比)」のように世界比較する図がないのを不審に思い、アメリカと比較するグラフを作成しようとしたところ、財務省の公表する公債依存度表の算出方法にアンフェアな部分があったので書き留めておきます。
公債依存度の算出式
公債依存度の算式は赤字額(支出ー収入)を支出で除算した単純なもので、詳細は以下の式になります。
公債依存度={(A)収入(歳入ー公債金ー前年度剰余金受入)ー(B)歳出} ÷ (B)歳出
歳出の債務償還費がアンフェア
次に歳出の内訳をみると、国債費の中に「債務償還費」(図1)という項目があります。債務償還費とは借金返済に充てる費用を指し、最近では毎年15兆円超と膨れ上がっています。これについて、財務省が自ら作成した「諸外国の債務管理政策等について」(図2)によると、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの先進五カ国では公債処理について「財政黒字になれば償還」とされ、貿易大国ドイツ以外は全て財政赤字国なので、事実上歳出予算の中に債務償還費は入りません。
黒字にならない限り償還しない他国と、赤字でも償還しなければいけない日本とを比較するのはアンフェアなため、歳出からこの債務償還費を差し引いた額でアメリカの公債依存度と比較する年推移グラフを作成してみました(下図)。なお、アメリカの歳入及び歳出は米財務省「Fiscal Data」の実収入と実支出データを用いて作成しています。財務省が日本の財政が危機だということを煽るために過剰な数値を利用していることがわかります。
◆日本の歳出から債務償還費を除いた公債依存度の日米比較推移
◆日本の歳出から債務償還費を除いた公債依存度の日米比較推移(財務省公表データとの比較)
主な国の債務残高(GDP比)も怪しい
実は冒頭で挙げた「主な国の債務残高(GDP比)」のグラフも不公平な点があります。図をよく見ると注釈1に「数値は一般政府(中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの)ベース」と書いてあり、純粋に中央政府、地方政府だけの債務残高でなく「社会保障基金」の内訳が不明瞭です。そこでIMFより政府債務対GDP(IMF Central Government Debt)をダウンロードしてグラフ化してみました。
主要国の政府債務対GDP比を年推移で表したグラフが下図です。社会保障基金を入れなければイタリアとの差は縮まります。社会保障基金という項目を入れることで深刻さを強く主張したかった思惑が見て取れます。また大蔵省が総量規制をしてハードランディングさせたバブル時代が最も政府債務対GDP比が健全だったことがわかりました。この時の政府債務がどれだけ増えていたのか財務省が毎年公表している「債務管理リポート」の普通国債残高を元に作成してみました。
するとオイルショック後の前年比50%を超える財政出動は当然のこと、バブル景気の時でさえ前年比2~4%近い国債発行増額をしていることがわかります(下図)。「割合でなく金額の大きさが深刻だ」という批判もあるかもしれませんが、マネーはあくまでモノやサービスに対する価値を相対的に判断する媒体に過ぎません。この30年でドイツの物価は3倍、アメリカは4倍、中国は約10倍と上がっているため、日本も物価が上昇していればGDPも増加するので対GDP比も他国と差はなかったわけです。ところが、バブル以降30年間物価がほとんど変動しないという世界で前例のない現象が起こっているため財政に対するおかしな議論が増えています。
ピンバック: 債務償還費を除いた「ワニの口」実は閉じかけていた – 萩高STUDIES