経済学者?成田悠輔氏の言論に違和感しかない件

経済学者?成田悠輔氏の言論に違和感しかない件

 成田悠輔氏が魅力的なお人柄であるのは理解しますが、経済学者でありながらひろゆき氏レベルの反論をしていたことに衝撃を受けたので、違和感を受けた所を書き留めておきます。

「なんで政府支出が経済成長を動かすと断言できるんですか?単純に経済成長してない国はお金も入って来ないので政府支出を増やしようがないただそれだけの可能性もありますよね?」

 経済成長=GDP成長率とするならば、GDPの算出式が「家計最終消費支出+対家計民間非営利団体最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成+在庫変動+財貨・サービスの純輸出(輸出-輸入)」(支出側計算式=内閣府)なので、経済波及の大小はあるものの、政府支出が増えればGDPが増加する=経済成長すると断言できるのは当然です。これは基本中の基本です。

 また下図に示すように2021年のアメリカの歳出額と税収を見ても同じことが言えるでしょうか?相関関係と因果関係を混同している、あるいは論理が逆で経済成長している国だから歳出も多くできるのだという批判は緊縮派がよく用いますが、そもそも税収が歳出を上回った国は先進国ではアメリカが1998年~2001年にかけてあった程度で、欧州唯一の勝ち組先進国であるドイツですらありません(下図)。つまりお金が入って来る来ない関係なく、予算通りの歳出は毎年事実として行われています。ただ歳出の予算額はインフレ率の上昇や政府総債務等が人為的に考慮された(その額が正解かはわからない)額になるためどの国も税収からはあまりかけ離れない程度の額にはなっていますが、毎年赤字であることには変わり有りません。ただ2020年、21年のアメリカは「あまりかけ離れない程度の額」すらも打破したMMT的な歳出額となっています。

「そしたら日本中の人が全員365日休んでいます。何の仕事もしていません。政府は一人一億円お金を刷りました。みんな一億円手に入ります。みんな一億円使いました。経済成長バンザイってことですか?」

 前提が極端過ぎて破綻しています。日本中の人が365日休んでいるのに、どこで使うんですか?輸入でしょうか笑、でもその前に皆が仕事していなければ電気・水道・ガスといったライフラインや警察等の公共サービスも停止して日本がカオスになって終わりです。このような幼稚な例えではなく、経済学者同士の議論なのですから、現実的に毎月3万円~10万円を配った場合に(1)税収はどの程度増えるか、(2)為替はどう変動するか、(3)インフレ率・賃金はどのくらいのペースで上昇することが予想されるかというような具体的建設的な議論をすべきです。素人のおっさん同士がサイゼリヤでワイン飲みながら議論しているのと変わりありません。

「日本人が誰一人働かなくなったとしますよね?で政府が新たに100万円分お金を刷りました。みんなに配りました。みんなお金を使いたいので100万円をパチンコに使いました。これで経済成長してみんなが豊かになりましたっておっしゃってるんですよね」

 ひろゆき氏が降臨したような幼稚な屁理屈です。日本人が一人も働かなくなる確率は0%、加えて配られた100万円を国民が全員パチンコに使う確率も0%(誰一人働かなくなったって言っているのでパチンコ屋は開いていない。開いていたとしても国民全員が入れるほどパチンコ店舗数はないためあり得ない。国民全員が入れるほどのパチンコ店を作ったとしても食べなければ死ぬ)。それでもこの無意味な空想前提に付き合うのであれば、その国民にとってそれほどパチンコが命であるならば、成田氏が後で述べる幸福度は増すので悪くはないでしょう。少なくとも私はパチンコはお金があったとしても退屈で行きたくないし、また仮にお金が給付されたとしても「仕事こそ我が生きがい」とする職人気質の日本人は多いはずです。

「なんで100万円でハイパーインフレは起きないと断言できるんですか」

 国民全員に年100万円を配るということは100万✖1.2億人=120兆円/年です。2019年の日本の歳出額は100兆円、2020年は147兆円、2021年は145兆円です。現在物価指数はエネルギー込みでも3.8%、ハイパーインフレなど起きるわけがありません。この予算に加えて100万円を配るのであればGDPの半分を歳出する割合のため経済活動数が同じ前提ならば10%弱のインフレ率にはなるかもしれません。参考にアメリカはこの2年連続6兆ドルという規模の歳出を行っています。円換算すれば700兆円超です。アメリカの人口は約3.3億人なので国民一人当たり2年連続200万円超を配ったことになります。そして今アメリカのインフレ率はどうなっているかというと下図の通りです。いずれにしてもハイパーインフレは供給網の損耗や限定を伴った時に発生する現象であり、滅多矢鱈にハイパーインフレを持ち出すのは解を持たないが故にそれこそ自身の想像上の不安を持ち出しているに過ぎず非論理的で非建設的です。

「じゃあ代わりの仮説を提示しますよ。日本人はさぼってしまった。韓国人は頑張っていた。だから韓国人は経済成長して日本人は出来なかった。ただそれだけかもしれないじゃないですか。」

 単純な労働時間で言えば確かに韓国の平均労働時間は日本よりも多いです。しかし下図(OECD)を見ればわかる通り、ではスイスやイギリスは日本よりもっと「さぼっている」のになぜ経済成長しているのか、また韓国自体年々「さぼっている」のに経済成長しているなどから、労働時間の仮説は無意味とは言いませんが、少なくとも政府支出ほど経済成長に与える影響は大きくないことがわかります。

「(日本の成長率が低迷していた理由については)うんよくわからないですね。いろんな原因の可能性があって、いろんな原因が組み合わさっているんじゃないかと。勝手に思っています。もしかしたらまず一つは高齢化の問題がありますよね。働ける絶対量も減ってきている、で最近だと人口が減り始めている。でまあまあ人口が減るぐらいのことが起き始めたら経済成長も止まりそうだよねっていう話もあると思うんですよ。それ以外にもしかしたら中国とかアメリカが作り出せたような超巨大な産業作りに失敗してしまった。でそれはもしかしたら超少数のとてつもない起業家を輩出する仕組みが日本で作れなかった・・・」

「一般論としていえば、いくら発行するかと同じかそれ以上にそれを何に使うかってことがどう考えたって大事だと思うんですよ。」

 長く語っていますが結局は答えかわからないようです。一般論を述べるのであれば経済学者に聞く意味はありません。

「何の価値も創り出していないゾンビ企業に投資するのと、今後100年間頑張って働いてくれる新しい子供に投資するので同じわけが普通に考えたらないんですよ。ていうことでいうと、長い目で見たときに社会とか経済の成長とか豊かさに貢献してくれそうなものに投資するってことが大事だというごくごく当たり前のこと」

 それの選別にどれほどの手間と時間がかかると思っているのでしょうか。またそのゾンビ企業(定義不明)に投資した結果、新しいものを生み出す可能性もあれば、今後100年間頑張って働いてくれる新しい子供に投資した結果、その子供が堕落する可能性もあるということは考えられないのでしょうか。結局、貨幣の流れを意図的に局所化せず国民全員に平等に投資するというのが最も公平で計算しやすい政策でもあるといえます。

「経済学者とか、国の偉い人たちが、何かを考えて何かやれって一言言ったから国全体が成長するっていう世界感自体が何の根拠もないんじゃないか」

 例えば有名なアベノミクス初年の経済動向についても否定されるのであれば、それこそ根拠を上げなければただの感想を述べたに過ぎません。

 というわけで、確かに彼(と眼鏡)には魅力があることは認めますが、主張されていることは古くから言われている何の積み上げもない浅薄な内容でした。

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