日本人の所得と物価を他国と比較する

日本人の所得と物価を他国と比較する

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 バブル景気以降日本の物価は停滞し続けており、この物価の停滞が日本経済を悪循環させています。とはいえ収入が少なければ物価の上昇は迷惑です。一方ポジティブに考えれば世界一物価が安定している国であり、「日本はもう成長しない」論を主張する経済学者や評論家の中には「むしろ今で良い」との意見もあります。確かに「所得」が増えているのであれば、物価の停滞はむしろ人々の暮らしにとって良い事と捉えられるはずです。そこで、日本の所得と物価を世界の主要国と比較してみました。

 その前に「所得」とは何を指すかを定義しておきます。いくら収入が多くても税金や社会保険料で消費に使えなければ意味がありません。そのためここでは実収入から税金や社会保険料などの「非消費支出」を差し引いた「家計可処分所得」という指標を用いて、2000年の所得を1とした時の当年比率を算出し、グラフ化しました。なお2022年の物価高騰については論じていません。

❶ アメリカの可処分所得と物価指数

 出典は米商務省経済分析局(bea)「National Income and Product Accounts」(可処分所得)と米労働省労働統計局(bls.gov)「CPI for All Urban Consumers (CPI-U)」です。アメリカの物価は20年で1.57倍に上昇していますが、可処分所得が3.3倍以上という驚異的な上昇をみせているため、物価の高騰は生活に深刻な打撃を与えず理想的な経済サイクルとなっています。

❷ イギリスの可処分所得と物価指数

出典は英国国家統計局(ONS)から、可処分所得は「Regional gross disposable household income: all ITL level regions」、物価指数は「CPI INDEX 00: ALL ITEMS 2015=100」のデータを用いています。アメリカほどではないものの、イギリスも可処分所得の上昇速度がインフレスピードを上回っており健全な循環をしているようです。

❸ ドイツの可処分所得と物価指数

出典はeurostatから、可処分所得は「Adjusted gross disposable income of households per capita」、「物価指数」は「HICP – annual data」を用いて作成しています。ドイツとイギリスの可処分所得は似ていますが、物価はドイツの方がやや低いようです。

❹ フランスの可処分所得と物価指数

出典はドイツと同じくeurostatから、可処分所得は「Adjusted gross disposable income of households per capita」、「物価指数」は「HICP – annual data」を用いて作成しています。 フランスの物価指数はドイツと似ていますが、GDPがドイツに比べて低い分可処分所得の上昇スピードはドイツに劣ります。

❺ イタリアの可処分所得と物価指数

出典はドイツと同じくeurostatから、可処分所得は「Adjusted gross disposable income of households per capita」、「物価指数」は「HICP – annual data」を用いて作成しています。他の欧州先進国と比較してGDPが低いイタリアは可処分所得が2011年以降減少している反面、物価はやや上昇しており、可処分所得指数と物価指数の上昇速度が逆転しています。

❻ 日本の可処分所得と物価指数

 最後に日本です。

 可処分所得は総務省「家計調査」、物価指数は同省「消費者物価指数」のデータを元に作成しています。所得が上がっていれば今の物価の状況は良いことだといいましたが、20年もの間可処分所得は物価指数を下回り続けていました。世界から見れば完全なるデフレですが、所得が増えていないどころか減少している日本人にとってみれば、この物価でさえも相対的に高く見えるため買い控えが起き、当然のことながら経済は停滞し、負のスパイラルを起こしていたのでした。

❼ なぜ日本の所得は上がらないのか

 物価上昇にはコストプッシュ・インフレやディマンド・プル・インフレといった性質が異なるものがあるといいますが、結局物価が上昇してくれさえすれば労働運動は過熱するし、資産の目減りを回避しようと貯蓄は消費や投資に回り、それが資金循環を促し経済が活性化するため、長い目で見ればどちらも悪いことではありません。アメリカ、欧州と比較して日本の現金・預金保有比率は異常に高いことがわかっています(下図)。これはデフレが影響しています。

 日本だけ物価が上がらない理由はさまざま考えられますが、お金を生み出す主体の政府が自ら物価を抑え込む政策をしていたことは大きいです。石油危機を除けばバブル景気以前の日本経済では可処分所得上昇速度は常に物価上昇速度を上回っていました(下図)。

 「財政出動しても経済成長はしない」と評論する人もいますが、上記国の歳出額指数を合わせた下グラフを見ればわかる通り、歳出額の伸び率に相関して可処分所得は増加しています。生産年齢人口が日本の半分以下のイタリアでさえ歳出額は年々増加しています。好景気でもないのに歳出額を減らす国は日本以外に例が見つかりません。多額の財政出動による政府債務の累増によって紙幣価値が毀損することを恐れる人が政治家や資産家に多いですが、紙幣は財や労働サービスの代替品であるため、逆に言えば紙幣価値の毀損は労働者の相対的価値を高める事になります。金融国ではなく製造国として成長してきた日本経済をこれ以上衰退させないために「紙幣の毀損」こそが今はむしろ必要なのではと思います。

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