消費増税は景気を悪くするか

消費増税は景気を悪くするか

 消費増税は景気にどう影響を与えるのか、総務省「家計調査」と「消費者物価指数」を元に考察しています。

実質消費支出の算出

 景気の良し悪しは財やサービスの販売価格と販売数量の推移を調べるとわかります。総務省が作成する「家計調査」の1世帯あたりの平均消費支出を、同省調査の「消費者物価指数」で除することで販売価格によるブレをなくした支出額(以降実質消費支出)の増減推移がわかります。その年推移を表したのが以下のグラフです。


 消費税3%は、バブル景気だった1989年に初めて導入されました。消費税の導入はそれまでの商品の価格に3%が上乗せされるため、強制的な物価の上昇となり、インフレ率は上昇します。しかし、この時の実質消費支出額は増加傾向にあり、消費税の影響は受けていません。

 1997年消費税は5%に増税されます。この時、先の原理から再び物価の上昇が発生しています。また実質消費支出は翌年以降減少し続け、いざなみ景気と呼ばれる2004年までに約3万円支出が減少しました。


 2014年消費税は8%に増税されます。この時も物価が上昇し、実質消費支出は翌年以降減少、それに伴って物価は再び下落に転じます。2019年も物価が上昇しているものの、翌年が新型コロナによる異常な経済形態であったため、さらに減少した消費支出はあまり参考にしない方が良いでしょう。

 ただ言えることは、バブル景気以外において、消費税を増税すると翌年以降実質消費支出が増加した例は一度もないということです。2023年から始まるインボイスの導入によって免税事業者の「益税」の有無についての議論が盛んに行われています。仮に不公平な「益税」が有るとしても、その益税という概念を生んだ消費税によって全体の消費は減退し、翌年以降物価の下落が起きているということは、「値下げ」という利益の損失を事業者が行っているわけで、弱小事業者ほど値下げをしなければ競争に勝てないわけですから、長期的に観れば結局「益税」の不公平性はほとんどないといえるでしょう。

消費税批判に対する指摘


 ここで、「需要が減少しているのは消費税によるものではなく、人口減少によるもの」と主張する人がいます。

 確かに実質消費支出は消費税関係なく1997年以降減少し続けているように見えなくもありません。しかし、人口は2010年ころから毎年0.1から0.5%ずつ減少していますが、一方で世帯数は毎年0.5から0.9%ずつ増えているのです(下図)。


 人口が一人増えた時の支出額と一世帯増加した時の支出額の比は私にはわかりません。ただ世帯が増えているということは、多くは新たな住居が必要で、持ち家にしろ貸家にしろ住居代の他、家財道具や水道光熱費、食費等の支出は増えます。それにも関わらず実質消費支出が減少しているということはつまりこういうことになります。ライフスタイルの変化で世帯の構成人数が減少、そのため共働きが増加し(図左下)、失業率も減少(就業者数は過去最高)した一方で、その分の家賃や家のローンに支出が費やされ(図右下)、その他の支出をする余裕がなくなった、つまり本当はお金があれば消費したいが、その余裕がなくなったから支出が減った、のではないか。だから「デフレだ不景気だ」と主張する人もいれば、GDPの住宅支出額は伸びているので(下中央のグラフ国民経済計算「家計の目的別最終消費支出(実質値)」の「住宅・電気・ガス・水道」「持ち家の帰属家賃」)、「デフレではない」と主張する評論家もいるのではないでしょうか。

 ただ収入は増加せず、その一方で、年々増加する社会保険料や消費税という物価の上昇は、一般的な消費者にとってみれば消費の選択を一層狭まれ、無駄な支出は出来なくなり、実質消費支出はますます低下(貯蓄額は増加=左下図)、事業者は販売数量が低迷しているため、景気の先行きが立たず余剰金はあるが賃金は上げられないと負のスパイラルを起こしていたのではないかと推察します。

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