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教職員による未成年へのわいせつ事件の報道が近年多くなっています。報道は話題性のあるものを敢えて取捨選択するため、実状とはかけ離れた印象を与えることがあるので、教師によるわいせつ事件が本当に多くなっているのか調べてみました。
① 教師含む職業別のわいせつ事件の検挙数を把握する
まずはわいせつ事件の職業別検挙数を知る必要があるので、警察庁から「犯罪統計書」平成22年版~令和3年版をダウンロードし、各年の「罪種別犯行時の職業検挙数」を取得しました。職業の分類は多いのですが、その職業の人数がわかりそうな以下の職業のわいせつ事件検挙数(上段はわいせつ事件検挙数、中段は強制わいせつ、下段は公然わいせつ)だけをピックアップしています。
わいせつ事件検挙数の年次推移(左下)と、わいせつ事件検挙数に占める職業別割合(右下)をグラフにしました。わいせつ事件は強制わいせつが近年増加傾向にあります。またわいせつ事件検挙数に占める職業別割合では、聖職者とも言われる教員によるわいせつ事件は言語道断ではあるものの、他職種より多いかというと、データからはそれほど多いという結論には至りませんでした。ただ近年増加傾向にあることはわかりました。
② 教員、弁護士、中高大学生等の人数を取得する。
次に、教師のわいせつ事件が多いかを分析するためには、全教員数のうちに検挙された人数の割合が、他職業との検挙数割合より相対的に多いかを確かめる必要があるため、各職業の人数を取得していきます。教員数は文部科学省の「学校基本調査」各年版から当年の教員数を取得、中高大学生及び、専修学生数も同調査より入手できました。弁護士人数は日本弁護士連合会の「弁護士白書」各年版から年別人数を取得、警察官は警察庁「警察白書」各年版から当年の「警察職員の定員」を取得、自衛官は防衛相「防衛白書」各年版から当年「自衛官現員数」を取得、消防士は総務省消防庁「消防白書」各年版から消防職員数を取得、また失業者数は総務省統計局「労働力調査」から失業者数を取得しました。データの取得だけでまる一日かかりました。各人数は以下の通りとなりました。
これを元に職業別の10万人当たりの検挙割合を推移グラフで表しました(下図)。なお医療関係者の割合は、厚生労働省「厚生労働白書」が発表する「医療関係従事者数」の「医師」「歯科医師」「薬剤師」~「救急救命士」までを合算した数で作成していますが、警察庁が区分けする「医療・保険従事者」の「保険従事者」の範囲がわからないため、実際の割合はさらに低くなるとみられます。また2000年~07年及び2011年の検挙割合も医療関係者数が厚生労働白書から見つけられなかったため省略しています。弁護士についても、弁護士数・検挙数が共に少なく、検挙数が2件から3件に増えただけで割合が激しく変動するのでグラフには入れていません。
教師の検挙割合は2000~10年までは10万人中2人程で推移していたものの、10年以降増加し近年は10万人中4人程と倍増していることがわかります。但しわいせつ教師が本当に近年増加したのか、あるいは過去からあったもののこれまでは情報が開示されなかっただけなのかはわかりません。
加えて教員によるわいせつ事件が刑事事件にまで至らなかった可能性もあり、文部科学省が毎年公表する「公立学校教職員の人事行政の状況調査」から「性犯罪・性暴力等に係る懲戒処分等の状況(教育職員)」のを取得し、年推移グラフを作成しました(下図)。
やはり教員の処分数は増加しており、わいせつ事件で検挙された教員数が58件だった2018年、19年の処分数はそれぞれ245件、228件と約4倍の数値となっていました。この数値を元に改めて教師によるわいせつ事件割合をグラフ化すると以下のようになります。
印象とデータが一致した結果となりました。