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日本の財政収支の悪化を懸念する官僚発言が話題になる一方で、アメリカでは異次元な財政出動によるインフレの収束が見えないという世にも稀にみる対照的な国家運営をしている現状ですが、今世界の覇権を握ろうとする中国の財政については論じる専門家があまりいないので、中国国家統計局等共産党関連組織の公表データを元に紹介します。なお「中国の統計はあてにならない」という評価がありますが、それを言ったら何も論じられないので、ある程度の信頼性を担保したものとして分析しています。
① 日本の財政収支が「ワニの口」なら中国は「コブラの口」
かつて世界経済の先頭集団を走っていた日本とは異なり、急成長した中国の財政収支はまたいびつな形状となっています。日本の税収と歳出の差を財務省は「ワニの口」と表現していますが、もし中国の財政収支の推移を動物で例えるならば「立ち上がって威嚇するコブラの口」でしょう。だから何?てな話ですが。
日本と中国の財政収支年次推移比較(右は円換算したもの)
中国債券発行残高の推移
日米中の累積債務残高の推移
日本はGDPが低いので財務省や標準的な経済学者諸氏に問題視されていますが、GDPさえ高くなれば日本のマネーの量は米ドル・元に比べれば大したことはありません。反面アメリカや中国はGDPが下がれば途端に日本以上の危機になります。
② マネーストック(M2)が鯉の滝登り
ざっくりいうところの市場のお金の総額をあらわすマネーストックは、日本が2011年から21年までにわずか50%増なのに対し、中国は3倍以上に膨らんでいます。恐ろしいのはコロナ対策で国が財政出動する前まで日本は30%しか増えていないという病的状況でした。これは下グラフで示す通り、アメリカやユーロ圏と比べても低い増加幅です。
日本と中国の月次推移比較(右は円換算したもの)
主要国・地域合わせた月次推移比較(円換算)
③ 公共投資額が超ド級
公的固定資本形成とはざっくりいうと公共投資のことです。日本とは異なり財政法に縛られることのない中国は、財政収支などお構いなく必要な投資を躊躇なく行っており、日本以外の主要国と比べてもそれは歴然としています。
公的固定資本形成と実質GDPの相関を示した年次推移グラフ
④ 家計貯蓄率が異次元
家計貯蓄率とは可処分所得(所得から税金と社会保険料等を引いた額)から消費支出に使われなかった貯蓄の割合のことです。中国で貯蓄率が高い理由として、将来の所得に対する不安や医療費負担金の確保、不動産投資の目的などが指摘されています。また偏在した富は所得格差を拡大させており、所得格差を示すジニ係数も先進国としては最悪レベルとなっています。
主要国家計貯蓄率の年次推移
主要国のジニ係数年次推移
⑤ アメリカを猛追する中国の軍事費
日本は財政法第四条により、歳入の範囲で支出をすることが決められているため、必ず財源問題が発生します。財政法は公債の安易な発行によってインフレを防ぐことを第一目的としていますが、終戦後の制定当時、戦費調達を容易にする公債発行を防ぎたかったGHQの影響を強く受けた法でもありました。そのため、戦後レジームからの脱却が出来ない日本政府によってGDPの1%という自虐設定を貫き通してきたわけですが、中国はそんな制約などありませんので、アメリカに対抗すべく習近平が副主席になった2008年前頃より軍事費の拡大を行っており、2020年には日本の約5倍の予算を投資しています。
日本と中国とアメリカの軍事費年推(右は対GDP比)
⑥ バブル崩壊の兆しも株式時価総額はコロナ後激増
不動産大手恒大集団の債務不履行危機に直面している中国株式市場では時価総額が激増しています。資金繰りが悪化し被害を受けうると懸念した関連公営企業等も株価のさらなる下落を防ぐ目的から社債や国債の発行によって増資を図っているとみられます。社債の調達によって資金繰りが確保し安心した投資家が再び株を買うことで株価を上げる相乗効果になっているのではと推測されます。
中国の貸出動向によると2019年から債券発行額が増加しています。
日本と中国の株式時価総額の月次推移
主要国の上場会社数の推移
中国の貸出動向
⑦ 教育投資は日本の4倍
日本人研究者の中国流出が問題となっていますが、その理由の一つに待遇の差があります。下図で示す通り、中国の国公立大学は共産党の補助により日本の国公立大学の4倍以上の収入を確保しており、日本とは対照的な環境の良さから優れた研究者が多く流出しています。これは中国がえげつない引き抜きをしているというよりは、日本の緊縮財政による経費節減で招いた愚策が原因です。人口100万人当たりの博士号取得者数ではまだ追い抜かれていないものの、博士号の取得者数では中国はアメリカに次ぐ数となっています。