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外国から渡来した言葉や中国から伝わった漢字は、受容性の高い先人達に消化され、新しい日本語として多く生まれ変わりました。反面、私たちにはその言葉が外国由来なのか日本製なのかわからないことも多く、勉強を兼ねて調べてみました。
日本で作られた外来語(和製外来語)一覧
アベック
二人連れの男女。(出典:大辞林)フランス語のavec(~とともに)から派生して使われるようになったといわれる。
シュークリーム
小麦粉を卵で練り、オーブンで焼いて内側を空洞にした皮の中に、クリームを詰めた洋菓子。(出典:大辞林)同じ菓子を指すフランス語のchou a la creme(シュー・ア・ラ・クレーム )のシューと、英米語の牛乳からとれる脂肪質を指すcream(クリーム)を合わせた造語。英米ではcream puff (クリーム・パフ)という。
ショートコント
数秒から数十秒程度の短い寸劇のこと。英語の短いを表すshort(ショート)と、フランス語のconte(コント)を合わせた造語。英語ではshort comic play(ショート・コミック・プレイ)やcomical skit(コミカル・スキット)という。
ゴム
弾力性のある植物由来の物質。オランダ語のgomからきている。英語ではgum(ガム)という。
メルヘンチック
「おとぎ話に登場するような」という意味。ドイツ発祥の空想的な物語を意味する「メルヘン」と、「~のような」という意味を持つ和製外来語「チック」を合わせた言葉。チックという言葉は、「アロマティック」「アダルトチック」など、近年に続々作られる和製外来語の重要接尾辞となっているが、語源は「情熱的な」「空想にふける」という意味のromantic(ロマンチック)のtic(チック)が発祥らしい。しかし、英語で「~のような」という意味を持つ接尾辞は「-ic」であり、チックとは限らない。ロマンチックのほかにも、cosmetic(コスメチック),exotic(エキゾチック),fantastic(ファンタスティック)など、名詞の語幹にtがないものがあるが、堀田隆一氏によるhellog~英語史ブログによると、ギリシア語起源の単語に発生するらしい。
ファンタジック
メルヘンチックと同様、空想的なという意味の「ファンタジー」と、和製外来語の接尾辞「チック」を合わせた造語。正しくはfantastic(ファンタスティック)だが、日本語でファンタスティックを使うときは「素晴らしい」という意味を加味したニュアンスとして使われ、「ファンタジック」と使い分けがされつつある。(関連サイト:誤字等の館)
レッテル
道具や商品に貼るなどして、識別するための文字や絵を描いた札のこと。派生して人に対して評価する慣用表現「レッテルを貼る」としても使われる。英語のletterをオランダ語ではレッテルと発音し、これが由来らしい。letterは本来、字母、文字を意味する言葉で、英語では札を意味する言葉はlabel(ラベル)であり、オランダ語ではetiket(エチケット)という。
ルンペン
浮浪者のことを指す言葉だが、元はドイツ語で「ぼろ布・古着」を意味するLumpen(ルムペン)という意味。大阪朝日夕刊に連載された下村千秋の『街の浮浪者(ルンペン)』で一般化し、大失業時代となった昭和5年頃には失業者の意味としても多く使われた。
ニヒル
もともとはラテン語で「虚無」の意味だが、日本では斜に構えた冷めた様に用いられる。英語で「皮肉な」という意味のcynical(シニカル)と似ているが、なぜかニヒルは男性にしか使わない気がする。
バリカン
バリカンはフランスのメーカー「Barriquand et Marre(バリカン・エマール)」が由来。言語学者の金田一京助氏が東京・本郷の理髪店を訪れた際にバリカンに刻印された同名を発見したことで判明したことが知られている。英語ではhair clippers(ヘア・クリッパーズ)という。
ピント
日本では「焦点」という意味で用いているが、オランダ語で焦点はbrandpunt(ブランピュント) 。その後部の「ピュント」だけが使われ「ピント」となった。幕末の洋学者・柳河春三氏による『写真鏡図説‐初』(1867)に「尖枢。英にては『ホキュス』。和蘭にては『ブランドピュント』と云ふ。物影不透明版(くもりいた)に映じて最鮮明なる処」とあることから(出典:日本国語大辞典)、江戸幕末頃より伝わっていたが、省略された「ピント」が使われ始めたのは大正以降とみられる。
カンパ
資金募集。もしく募集する資金そのものを表す言葉。由来はロシア語で「運動・選挙運動、またはそのための資金」を意味するkampaniya(カンパニヤ)だが、日本の使用例では運動の意味は省略されていることが多い。
イクラ
ikraはロシア語で「魚卵」の意味。日露戦争出兵時のロシア人がキャビアの代用品として食べたのを日本人がみて食べ始めたらしい(出典:日本国語大辞典)。イクラといえば日本では鮭やマスの卵のことだけを指す。それよりも前に日本では「筋子」という名称で室町期には食されている。それだけ日本にとって海の幸が身近で敬愛すべきものだったのだと感心させられる。
クーポン
coupon(クーポン)の語源はフランス語で「紙切れ・券」を表すcolperが起源とみられる(Oxford Languagesより)。日本では明治ー大正期に到来した外来語で、割引の意味が込められたクーポンとしてはおそらくはアメリカ経由で伝わったと思われる。19世紀初頭にアメリカに入り、コカ・コーラ社が1888年に発行した無料券が雑誌に掲載されたことで広まったと米国版Wikipediaには書かれている。Google Books Ngram Viewerで調べるとやはり19世紀後半から多く使われているのがわかる。
デマ
虚偽情報を流す人をデマというが、この語源がいい加減なことをしゃべる「でまかせ(出任)」だと主張する人がいる。確かに似たような意味合いなので、でまかせをデマと略したつもりで用いている人もいるだろう。ただ明治期の経済学者・添田寿一がドイツ語のdemagogie(デマゴーグ)を19世紀後半に既に用いており、さらに大正から昭和にかけて社会主義運動がさかんになると、思想闘争の過程で「デマ」は多く用いられた。中には「デマる」なんて今時な言葉も。 Google Books Ngram Viewerで調べると、アメリカでもロシア革命が起きる前後の1910年頃の書籍にこの言葉が最も多く登場している。
和製英語っぽい英語
ラッシュアワー
昭和4年頃から電車やバスの混み方が激しくなり、一般に使われだした。
オン・パレード
1930(昭和5)年にアメリカで封切られたパラマウントの全監督、全俳優を総動員して製作されたレヴュー映画『パラマウント・オン・パレイド』がヒットし、以降人や物がずらりと並ぶと用いられるようになった。『東京エロ・オン・パレード』(西尾信治・1931)『花嫁オンパレード』(南竜一・1931)など。
シーザーサラダ
いつ頃からだろう、ファミリーレストランにさも当たり前のようにメニューに載っていた。Wikipediaや調理用語辞典によると、メキシコ北西部の都市ティワナにあるレストランで1924年ごろ出されたサラダで、考案したレストランの名前が「Caeser’s(シーザーズ)」だったことから。日本初上陸は1949年に帝国ホテルで開かれたクリスマスイブ・パーティーで提供されたというが、ファミリーレストラン等で広く出されるようになったのは1980年代だった気がする。
ホットドック
1900年初頭に漫画家ドーガンが造ったとされる造語。由来は所説あり、この食べ物に犬の肉が使われているという噂からというものと、犬のダックスフントの形から連想したという説がある(出典:日本国語大辞典)。戦前から日本でも認知されていた。
テイクアウト
お持ち帰りの時に用いるテイクアウト(take out)。現在ではto goという表現の方が主流らしい。イギリスではtake awayが一般的。
日本で作られた英語(和製英語)一覧
和製外来語のうち、英語と勘違いされているもの和製英語という。
ナイター
夜間試合のこと。特に野球で使われ、英語圏ではnight game(ナイト・ゲーム)という。 「和製英語」としては有名どころだ。ところが、ナイターは和製英語ではなく英語の死語であるという見方もある。 0llo.comのブログによると、「パンチョ伊東」で知られる伊東一雄氏が「アメリカの野球関係者などと話をすると、古い人たちはナイターと言っていた」と話していたそうだ。だとすれば、時とともに使われなくなった死語英語を、現代では使われていないので日本人の誰かが作ったと勘違いしたことになる。ちなみに、昼間の試合はday game(デイ・ゲーム)。day-light gameとも。
アルプススタンド
兵庫県西宮市の甲子園球場の内野席と外野席の間にある大観覧席のこと。Wikipediaなどによると、漫画家の岡本一平が1929年に大幅増築された同席にいる観客の着衣が白く映えていたことから、これをアルプスに例え、「ソノスタンドハマタ素敵ニ高ク見エル、アルプススタンドダ、上ノ方ニハ万年雪ガアリサウダ」とキャプションを入れた漫画を朝日新聞に発表したことが広まった発端とされ、その後「アルプススタンド」が正式名称となった。
アウトコースとインコース
外側のコース、内側のコースの意味だが、英語ではoutside track、inside trackという。英語のoutとoutsideの違いをよくわからない日本人が用いるようになったようだ。outは外、outsideは外側を意味するので、out courseだとコースから外れるという意味になってしまう。
テレビゲーム
テレビ(TV)画面で遊ぶゲーム(game)なのでテレビゲームという呼称が広まったが、英語ではvideo games、computer gamesなどという。TV gameというと、テレビのクイズ番組と誤解されるかもしれない。
OL(オフィス・レディ)
事務所や会社を意味するoffice(オフィス)と、そこに勤める女性のlady(レディ)を合わせた造語だが、英語ではoffice worker(オフィス・ワーカー)や女性を強調したいならfemale office worker(フィメール・オフィス・ワーカー)という。
ガソリンスタンド(ガススタンド)
ガソリンなどの燃料を販売する店舗のことで、日本の消防法では給油取扱所と定義している。店舗を意味するstand(スタンド)を合わせた造語だが、standは小規模な店舗を指す言葉で、米国ではgas station(ガス・ステーション)、英国ではpetrol station(ペトロール・ステーション)という。
カンニング
他人の答案を不正にのぞき見して自らの答案を作成すること。明治の文明開化時に英語のcunning(カンニング=ずる賢い)から新聞等で用いられるようになった。英語ではcheating(チーティング)という。
ワイシャツ
袖の短いTシャツに対して、袖が長くてYの字に見えなくもないからYシャツだと勘違いしていた学生の頃、雑学本を読み、white shirts(ホワイトシャツ)を明治時代の日本人が聞き間違えたことが発端と知った。というわけで、少なくとも1980年代頃から広く認識されていた有名な和製英語。
フリーサイズ
どんな大きさの体にも合うという意味で使われている。フリー(free)はジーニアスによると、①自由な、②束縛を受けない、③無料の、④ない、⑤ひまな、等の意味があり、「自由なサイズ」「束縛されないサイズ」「サイズは(決まって)ない」などと訳せるため正しく認識されそうだが、米国ではfree sizeというと「サイズ無料」と聞こえるらしい。適当な表現はone-size-fits-all(OSFA)というが、life-dictionary.netによると、中国韓国ではこの和製英語が理解されているそうなので、あえて使ってみるのもありだろう。
ベビーカー
乳児をのせて運ぶ乳母車(うばぐるま)を安易に直訳したのがきっかけだろうと推察できる。乳母車の「車」は、「車輪を付けた運搬具」の意味として使われているのに対し、carはコウビルド英英辞典によると、「a motor vehicle with room for a small number of passengers」(少人数を乗せられる部屋がついている動力で動く乗り物)とあり、意味にニュアンスの違いがある。「夜半」の「半」は半分の意味と、中央の意味があるのに、midnightではなく、halfnightと訳してしまったような事なのだろう。全く伝わらないとは思わない。ただ米国ではstroller(ストローラー)、pushchair(プッシュチェアー)、baby carriage(ベビー・キャリッジ)、英国ではpram(プラム)といった方が会話はスムーズになる。
ハイテンション
気持ちを高ぶらせた状態という意味で、お笑い芸人さんがよく用いている。おそらく1980年代から使われ始めていたように思う。テンション(tension)は本来「緊張」という意味の言葉で、ハイ・テンション(high tension)も「高電圧、高電圧の」と認識されているため、このような意味では通じない。Yahoo知恵袋によると、音楽用語の「テンションコード」から使われ始めた説が書かれている。ライブ会場などでミュージシャンが気分を盛り上げる時に、「テンション(・コード)を上げる(=ハイ・テンション)」と使うことがきっかけだろうとのこと。このような時、英語では単純にhigh spirits(ハイスピリッツ)とかexcited(エキサイテッド)でいい。
ノートパソコン
ノートサイズのパソコンという意味。ノートはnotebookを短縮した和製英語、パソコンもパーソナル・コンピューター(personal computer)の略で、和製英語と和製英語の組み合わせでできている。英語で正しくはnotebook pc。
シンパ
シンパサイザー(sympathizer)の略。同調者、同情者の意味で、1920年ころから政党のイデオロギーや政策に共鳴し、具体的行動に協力する党外の人物を指す言葉として使われはじめた。
フレー!フレー!
英語で「万歳」を表すhurrayが由来だが、現在の日本語の用法としては主にスポーツ競技で「がんばれー」や応援の掛け声の意味で用いるため、本来の意味・用法とは若干ずれてきているように思う。
ダンボール
波形に成形した中芯原紙の片面または両面に、ボール紙を張ったもの。段になっているボールなので段ボール。ボールは厚紙または板紙のことだが、もともとは「板」を意味するboardのdが欠落した音。江戸末期、馴染み深いオランダ語の同義語bordを「ボールド」と読んだことの名残ではと日本国語大辞典に記載されている。ニッポニカによると段ボールは1870年にアメリカとドイツで発明された。明治10年一月の勧業博覧会に国産のボール紙が出品されたのを機に国内に広められ、本表紙に多く用いられるようになったと日国は記載している。
フロントガラス
自動車の運転席の前面にある窓のこと。前にあるガラスだからfront – glassと思うが、アメリカ英語ではWindshield、イギリス英語ではWindscreenという。
バックネット
野球場で本塁の後方に張ってある、打球などを止めるための網のこと。後ろのネットだからback – netと思うが、アメリカ英語ではbackstopという。
ポテトフライ
アメリカではfrench fries、イギリスならpoteto chipsもしくはchipsという。では日本のポテトチップスはどう呼ぶのかというと、米国ではそのままpoteto chips、英国ならcrispsとややこしい。
ホテルフロント
ホテル正面玄関にある受付をしばしばフロントと呼ぶが、これはfront deskを略したもの。ではいつから使われ始めているのかというと、戦前には使われていたようだ。戦前の喜劇俳優、古川ロッパ氏の『古川ロッパ昭和日記』(1940)に「フロントに電話して滞在中の森田たまさんに会ひたいからと言ったら」とある。受付は front desk 、reception(レセプション)などという。
ガードマン
英語圏でsecurity guard(セキュリティ・ガード)と呼ばれる人たちがなぜガードマンと呼ばれるようになったかというと、かつて人気を博したテレビ番組が影響を与えたようだ。日国によると、1964年に民間警備保障会社の従業員の呼称として使われ始め、翌年から放映されたテレビ番組『ザ・ガードマン』によって広まったとのこと。ではなぜ警備会社従業員の呼称をガードマンと呼んだのだろう? プログレッシブ英和ではsecurity guard [man]と”マン”を付ける呼び方も書かれており、当時の人たちが少ないフレーズで意図が組めるguard manを採用したのかと想像する。ちなみに、guards manになると「(米)州兵」や「(英)近衛兵」という意味になる。
クレイム
クレイムという言葉を多用した作家といえば、かつて天才少女と称された宮本百合子氏だ。のちに日本共産党初代委員長、第2代議長を務めた宮本顕治氏の妻となり、25年の治安維持法制定により再三検挙されながらもプロレタリア文学をけん引した人物で、最も古いので確認できるのは「女性の作家は何かの形でいつも「女としての」何ごとかを世間に向ってクレイムしていると思うのは私の誤だろうか」『わからないこと』(1925)か。明治―大正期に使われ始め、当時は社会の下層階級のものが権利を求めたり主張するという意味合いが強かったが、現在はこの言葉を用いる双方の立場が当時とは異なるように思える。英語圏ではcomplaint(苦情)、また「クレイムをつける」はmaking a complaintという。
マグカップ
取っ手の付いたコップのことをマグカップと呼ぶが、英語圏ではmugだけで十分。日本の文化では貯蓄、舞踊、遊戯、違反、変換など同じ意味の漢字を並べた熟語は当然のこと、チゲ-鍋、サハラ-砂漠、ハン・グル-文字、クーポン-券、サルサ-ソース、フラ-ダンスなど、同じ意味の言葉を繰り返す複合語においても、丁寧な印象を与えるのでさほど違和感を感じない。調べると襟裳岬の「エリモ」もアイヌ語の「エンルム=岬」から来ているとの説がある。そのため表現が過剰になり「馬から落馬する」「頭痛が痛い」「被害を被る」「犯罪を犯す」といった重言も生まれてしまう。一方で伝達が直接的な西欧文化には、到底理解できないことだろう。
キーホルダー
海外の和製英語を紹介するサイトにキーホルダー(key holder)が掲載されていたので、確認のため辞書で調べてみると、大辞泉、日国、国語大辞典、広辞苑は特別和製英語の注釈がなく、新明解(第五版)にのみ〔和製英語〕とあった。 key holder という単語がないわけではないが、key holderといえば下画像のような小物家具を指し、和製英語のキーホルダーを指す言葉はkey ringやkey chainという。
クーラー
世に「エアコン」として販売されている現在において、いまだクーラーと呼ぶ世代は後期高齢者世代くらいであろうが、coolerというと店舗用冷蔵庫のようなものと勘違いされるおそれがある。
コインランドリー
硬貨を入れると作動する自動洗濯機や自動乾燥機をそろえ、衣類の洗濯をセルフサービスでできるようにした店舗のことだが、アメリカではこのような店はlaundromat(ランドロマット)というほうが一般的のよう。
コンセント
電気器具に電流を供給するために器具コード末端のプラグを差し込む口のことで、アメリカ英語ではpower outlet、イギリス英語ではpower socketと呼んでいる。コンセントの語源は大正の末頃、consentに「一致」という意味があることから、プラグと差込口を組んだものをコンセントプラグと呼んでいたが、東京電燈会社に務めていた小林勲氏が、同社の電気工事規程である内線規定(第二版)を起草するに際して、コンセントとプラグに分けたことから、差込口に対して用いるようになったと日国が記している。
サービス
日本でサービスと聞くと、時々優遇や無料奉仕という意味で使われることがあるが、英語のserviceにその意味は含まれていない。
クラクション
日本では車が鳴らす警笛のことをクラクション(klaxon)というが、クラクション実は商標名でアメリカではhonkingというのが一般的。1910年に klaxon 社の警笛が乗用車に採用され、klaxon hornと呼ばれたことに由来する。ステープラー(stapler)を「ホッチキス(hotchkiss)」と呼ぶようなもの。
オーダーメード
既製品に対して注文してから作られる製品をオーダーメードというが、order madeは和製英語で正しくはmade-to-order、custom-madeなどというと大辞泉にあった。ただBooks Ngram Vierwerによると、20世紀初頭には多く使われていた言葉のようで和製英語ではなく、死語英語の可能性がある。
ユニットバス
浴槽やトイレ、洗面台などが一体化した浴室のことをユニットバス(unit bath)というが、そもそも欧米の浴槽はトイレや洗面台と同じ部屋にある方が一般的なので特別な名称などなく、むしろトイレと分けられた浴室のことはseparate bathroomなどという。
バイプレーヤー
わき役のことをしばしばバイプレーヤーと呼ぶことがある。「脇役」という意味のby playに、人を表す接尾語-erをつけたもので、中外産業調査会の「人的事業体系」(1900年)という書で使われていたことから、大正時代にはこの言葉が使われていたことようだ。しかしアメリカでは用いない表現で、正しくはsupporting actorという。
ドンマイ
これも昔からよく雑学本に書かれている和製英語の一つ。do not mindが由来だが、励ましの意味では使われず、「気にしない」という意味で使われている。「I don’t mind telling you(言っても構わない)」「if you don’t mind me asking(差し支えなければ)」等。励ますにはNever mindやNo worriesが適当。
日本で作られた漢字(和語)
漢字には大きく二種類に分けられ、中国由来と日本で作られたものがある。中国由来の言葉を漢語といい、音読みの熟語の多くが漢語である。一方、日本で使われるようになった熟語は和語と呼ばれ、訓読みだけで構成されていたり、湯桶読みや重箱読みのように一部で訓が使われたものが多い。ただ鎌倉時代や幕末から明治期にかけて大量輸入された外来語の翻訳語として創作された熟語の多くは音読みで構成されているため、漢語と勘違いされやすい。これらは和製漢語と呼ばれている。
なお日本国語大辞典を拠所とすることが多いため、其の際は「日国」と略称しています。
一.国字(和製漢字)
国字とは、漢字をまねて日本で作られた漢字体の文字で訓読みのみの漢字が多い。日本特有の食物や植物が多い。
鮟鱇(あんこう)
―魚のアンコウのことだが、もともとは「あんご」そこから「あんこ」に転じる。江戸前期の俳人・安原貞室著『かた言』(1650)に「鮟鱇を、あんご」と書かれていることから(出典:日本国語大辞典)、江戸元禄期には作られていたようだ。「鮟」も「鱇」も国字だが音読みで紛らわしい。そして現代中国でも使われているが、新選漢和辞典によれば、別の意味として用いられているらしい。中国で鮟鱇は「垂釣者」と書く。
込(こ)
―
榊(さかき)
―
笹(ささ)
―
雫(しずく)
―
躾(しつけ)
―
腺(せん)
―新選漢和辞典によると「腺」は体内で分泌を行う器官の意味を表す。「汗腺」「涙腺」「腺病」などから医学用語として造られたことがわかる。『和英語林集成』にはなく、大衆雑誌『太陽』(1895)の石川千代松『蝶の話』で「直膓、肛門、涎腺」と使われているので明治10~20年頃にはあったとみられる。字通によると『中華大字典』(1915)に「動物體中の皮細の變性して液汁を泌するの處、日本の生理學家、之れを腺と謂ふ」とある。中国でも「汗腺」「涙腺」は使用されている。
凧(たこ)
―江戸期の風物玩具。語源由来辞典によると平安時代初頭に中国から到来した文化で、当時は「紙鳶(しえん)」と呼ばれていたという。「たこ」の名称は取り付けた足のような巾飾りが風になびく様がタコに見えたことからだが、実は地域によってことなる。日本国語大辞典によると、近畿・北陸、中四国の一部では「イカ・イカノボリ」、東日本・四国南部・九州東部は「タコ」、さらに東北北部と九州西部では「ハタ」という名称で呼ばれている。「凧」の字は『春色梅児与美』に「凧の糸目も花の邪广」とあることから、江戸化政期には既に造られた言葉であることがわかる。ちなみに現代中国語では「风筝」という。
鱈(たら)
―
辻(つじ)
―
峠(とうげ)
―坂道を登りつめた場所のこと。日国によると、そこで通行者が旅の安全を祈って道祖神に「手向け」たことが「とうげ」の由来で、小学館全文全訳古語辞典によれば、中世以降「たむけ(手向)」からウ音便化して「たうげ」に代わり、その地勢から「峠」という字を作ってあてたという。ただ日本大百科全書では異なる由来として、「山地の尾根の峰と峰との間の低い鞍部 (あんぶ) を 古語では「タワ」「タオリ」「タル」「タオ」といい、尾根越えを表す「タワゴエ」や「トウゴエ」が詰まった」と解説している。「たむけ」の最古の使用例は万葉集で「恐(かしこ)みと告(の)らずありしをみ越路(こしじ)の手向(たむけ)に立ちて妹が名告(の)り」の句がある。「峠」初出は堀河百首(1105~06)の「足柄の山の峠に今日来てぞ富士の高嶺の程は知らるる」か。
凪(なぎ)
―風が止むことを表し、「和ぐ(凪ぐ)」の名詞形。字通によると「凪」の字は『文明本節用集』などに登場していることから、室町期には作られていたとみられる。
畑(はたけ)
―
働(はたらき)
―
俣(また)
―わかれまたを意味し、ほとんど人名や地名に用いられている。古文書を調べると明治元年の「奈良府ヘ責付ノ小俣伊勢主従赦宥」に「小俣伊勢当春以来」と使われているなど、少なくとも江戸後期には使われていたようである。中国では「俁」の簡体字として使われ、意味は異なる。
麿(まろ)
―一人称「麻呂」を合わせた造語。「まろ」という和語の語源や歴史は奥深くここでは取り上げないが、顕昭の『柿本朝臣人麿勘文』で用いられていることから、平安期には使われていた。
枠(わく)
―
二.訓読み熟語
間柄(あいだがら)
―
青空(あおぞら)
―
秋風(あきかぜ)
―
雨雲(あまぐも)
―
雨戸(あまど)
―
荒波・荒浪(あらなみ)
―『万葉集』に「荒浪(あらなみ)に寄りくる玉を枕に置きわれここにありと誰か告げけむ〈丹比真人(名未詳)〉」とある。
家柄(いえがら)
―
家元(いえもと)
―
岩場(いわば)
―
渦潮(うずしお)
―
腕前(うでまえ)
―「前」は前方を意味する熟語が多い中、分量や機能・特徴の意味を表す熟語もいくつかある。「一人前」「分け前」「腕前」「男前」など。分量の意味として使われたもので古いのは、戦国時代の名家・今川家による分国法『今川仮名目録』に書かれたもので、「知行差出の員数之外、私曲之由訴人有て、百姓まへ検地すべきよし申に付ては、不可及披露」(十二条)とある。また「男前」では江戸化政期の歌舞伎で用いられている。
襟首(えりくび)
―
奥底(おくそこ)
―
奥歯(おくば)
―奥にある歯のこと。『日葡辞書』(1603~04)に「Vocuba (ヲクバ)〈訳〉臼歯(きゅうし)」とある。
崖下(がけした)
―
片隅(かたすみ)
―
形見(かたみ)
―
金物(かなもの)
―
神様・仏様(かみさま・ほとけさま)
―
絹糸(きぬいと)
―
首筋(くびすじ)
―
雲隠れ(くもがくれ)
―
渋皮(しぶかわ)
―樹木や果実の表皮の内側にある薄い皮。「しふかは」の表現は室町から使われており、江戸期には「しぶりかわ」の表現も散見する。二字熟語としての初出は幕末に初版の「和英語林集成」か。中国では「内皮」という。
炭火(すみび)
―
旅先(たびさき)
―庶民の娯楽として旅行が盛んになったのが江戸後期以降といわれていることから、少なくとも江戸以降に作られたとみられるが、文献に収録されている最も古いのは三遊亭円朝『怪談牡丹燈籠』(1884)の「私わたくしも都度々々書面を差上げたき心得ではございまするが、何分旅先の事ゆえ思うようにはお便たよりも致し難がたく」か。
血眼(ちまなこ)
―
手形(てがた)
―
手狭(てぜま)
―狭は「せま・い」「せば・まる」の読みがあるが、古い文献で出現するのは「せば」の方。日本書紀や古今和歌集、枕草子などで使われている。「てせば」は『三河物語』(1626)にて「御手之広き御代には、御普代は入申間敷けれ供、又、末之御代に御手せばに成たる御代に」とある。一方「てせま」は『続膝栗毛』(1810~22)の「方丈は普請中ゆゑ、手せまなれどここでゆっくりとやすまっせへまし」などそれより遅れて使われ始めたか。
遠出(とおで)
―
取消(とりけし)
―明治19年(1886年)刊行の法律専門辞書『仏和法律字彙』に初出か。以降福沢諭吉『福翁自伝』(1899)や夏目漱石『坊っちゃん』(1906)などで用いられている。「取り消し」という言葉は『源氏物語(若菜)』でも使われているが、法律用語として明治期以降に作られたとみられる。
寝汗(ねあせ)
―
寝息(ねいき)
―睡眠中に出る鼻息やいびきのこと。古くには日本書紀に「雖レ然吾当ニ寝息一」とあるが、ねいきと読んでいたかはわからない。井原西鶴の『好色一代男』(1682)に「いかなる者か寝息とめしその跡を肌馴るる事」、また荻生徂徠の『論語徴』(1700年代)に「寝息は宜しく静かなすべし、」とあるので江戸時代には広く認知されていた表現とみられる。
野原(のはら)
―
歯茎(はぐき)
―
橋桁(はしげた)
―
初雪(はつゆき)
―
日陰(ひかげ)
―
一息(ひといき)
―
一筋(ひとすじ)
―
真夏(まなつ)
―
豆粒(まめつぶ)
―
胸板(むないた)・胸毛(むなげ)・胸騒(むなさわ)ぎ
―
物音(ものおと)
―
悪者(わるもの)
―
三.和製漢語(音読み熟語) 鎌倉,室町以前
案外(アンガイ)
―和語「案のほか」に漢字「案外」をあて、音読みしたとされる。平安時代中期の公家日記『左経記』に使われているが、当時は「案外」と書いて「あんのほか」と読んでいたかもしれない。 宣教師による共編『日葡辞書』に「Anguai (アングヮイ)。すなわち、ヲモイノ ホカ」と記載されていることから、室町時代には「あんがい」と読んでいたことがわかる。(出典:日本国語大辞典)
引率(インソツ)
―日本国語大辞典では「引き率る(ひきいる)」を音読して成立した和製漢語とみなしている。『後二条師通記』や『明月記』『色葉字類抄』など平安後期~鎌倉時代の書物に記載が確認される。
火事(カジ)
―和語「ひのこと」に漢字「火事」をあて、音読みしてできた語。(出典:日本国語大辞典)
見物(ケンブツ)
―和語「みもの」に漢字「見物」をあて、音読みしてできた語。『御堂関白記』長和五年三月一二日に「此暁女方渡堂見物」とあるので(出典:日本国語大辞典)、平安期には使われていた。ちなみに中国語では「看」が適当か。
出張(シュッチョウ)
―和語「でばり」に漢字「出張」をあて、音読みにしてできた語。(出典:日本国語大辞典)
大根(ダイコン)
―和語「おほね」に漢字「大根」をあて、音読みにしてできた語。(出典:日本国語大辞典)
談合(ダンゴウ)
―和語「かたりあふ」「かたりあはす」に漢字「談合」をあて、音読みにしてできた語。平安時代から使われていた。 (出典:日本国語大辞典)
日本(ニホン、ニッポン、ヒノモト、ヤマト)
―「日」は漢音が「ジツ」、呉音が「ニチ」。また「本」は漢音呉音ともに「ホン」。呉音の「ニチ」と「ホン」が合わさり「ニホン」となったとみられる。宣教師による共編『日葡辞書』に「ジッポン」が掲載されていることから、室町期には使われていたことがわかる。「ニッポン」は漢音の「ジツ」を呉音の「ニチ」変えた「ニチポン」が促音便化して「ニッポン」になったと思われる。
物騒(ブッソウ)
―もともとは異なる字の訓読語「さわがし」があり、それと接頭語の「もの」を合わせた「ものさわがし」を音読みしていたが、似た意味で音が近い「騒」に変わったとのこと。(出典:日本国語大辞典)
風呂(フロ)
―『菟玖波集』(1356)や四園太暦』(1345)、『太平記』などで用いられていることから、室町以前から使われていたことは確か。中国語で浴槽は「浴缸」、風呂に入るのは「浴」でいい。
返事(ヘンジ)
―和語「かえりごと」に漢字「返事」をあて、音読みしてできた語。(出典:日本国語大辞典)
味噌(ミソ)
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老若(ロウニャク)
―「にゃく」は若の呉音。『色葉字類抄』に「老若 人事部 ラウニャク」とあることから(出典:日本国語大辞典)、平安時代には使われていた。漢語の「若」に「わかい」の意味はなく、現代中国語では「青年」が若者を指す。
四.和製漢語(音読み熟語) 幕末~明治期
和製漢語は幕末から明治期にかけて大量輸入された外来語の和訳として多く生まれている。
西周(1829 – 1897)は幕末時代に活躍した啓蒙思想家で、西洋学問の研究に際し外来語の学術用語を多く和訳、和製漢語を考案したといわれている。祖父のひ孫が森鴎外にあたる。
「哲学」=西周は当初philosophyを「理学」「窮理学」などと試訳したが、最終的には哲学に落ち着き、明治末に刊行された「英独仏和 哲学字彙」に「哲学」が収録されたことで一般化したという。ほかにも同辞典にはidealの訳語として「理想」、ideaの訳語として「観念」などが記載された。ちなみに「科学」は同書の中でScienceの訳語として掲載され一般化。西はScienceを「学」と訳していた。
「演繹」「定義」=Encyclopediaを訳した「百学連環」の中でdeductionの意味として「演繹」をdefinitionの訳語として「定義」を当てた。
「現象」=「利学」などで、西洋の哲学用語phenomenonの訳語として用いたのがはじめ。
「肯定」「概念」=論理学書「致知啓蒙」の中で、論理学の命題の二つの言いかたである「デアル」と「デハナイ」に対して、前者を「肯定」、後者を「否定」と言い表わしたことが始まり。肯定はaffirmativeの訳語として西周が造語したとされる。「概念」も同書の中でドイツ語Begriffの訳語として使われた。
「心理学」=米著者ジョセフ・ヘブンの「mental philosophy」を「心理学」と訳して出版。その後「psychology」も同様の意味として使われ、現在では後者が一般的に使われている。
「民主」=「民主」という言葉自体は南北朝時代の「神皇正統記」で使われていたが、民の主=君主主義としての意味だった。この言葉を反対の意味であるDemocracyの訳として用いたのは西周がはじめとされる。
(出典:「日本国語大辞典」、「日本語歴史コーパス」)
明治初期のインテリといえば福沢諭吉(1835 – 1901年)。
「改進」=「古いものを改めて、文明に進ませること。」の意で福沢諭吉による造語といわれている。
「愛人」=「愛する人」を意味する言葉。もともとは「人を愛すること」という言葉だったが、江戸末期頃より福沢らの翻訳により「honey」「lover」「sweetheart」の訳語として使われた。
「過剰」=古文でこの熟語が使われている例が確認できず、確認できるもっとも古い用例が福沢諭吉『文明論之概略』(1875)である。
「原因」=江戸以前には使われていない言葉で、西周『百一新論』(1874)か福沢諭吉『学問のすゝめ』(1872-76)の時代に意訳されたとみられる。
その他「社会」「自由」「経済」「演説」「討論」「競争」「共和」「抑圧」「健康」「楽園」「鉄道」などの翻訳をしたといわれている。
「文化」
坪内逍遥(1859年 – 1935年)がcultureを「文化」と訳したという。
「情報」
多くの造語の生みの親である森鴎外(1862年 – 1922年)が、クラウゼヴィッツの「戦争論」を訳した時に作ったという。
「浪漫」(ろまん)
夏目漱石(1867年 – 1916年)が「教育と文芸」の中で、フランス語のroman(ロマン)を訳した事が発祥。
「彼氏」(かれし)
昭和初期のマルチタレント、徳川夢声(1894 – 1971)による造語で当時の流行語だった。
依存(いそん)
―1936年の下中弥三郎の新語便覧『や、此は便利だ』に、「或者の存在又は性質が、他の者の存在性質に依て制約さるる関係を言ひ表はす語」として収録されているため、昭和初期に作られたとみられる。
教員(きょういん)
―学校が全国に作られた明治に作られた元は法律用語。
共産主義(きょうさんしゅぎ)
―「共産」という言葉はロシア革命前の明治初期頃よりcommunismの訳語として使われ始めたが、当初は「共産論」や「共産党」と言われていたらしい。同じ頃に「社会論」や「社会党」と訳されていた社会主義が次第に使われはじめ、共産論も共産主義へと変わったようだ。
芸術(げいじゅつ)
―江戸時代以前は言葉が存在せず、「技芸」と呼ばれていた。
国際(こくさい)
―1836年初版の国際法の教科書『Elements of International Law』(ホイートン・米)を中国在住の米宣教師W.マーティンが中国語に翻訳した『万国公法』が幕末に到来し、さまざまな国際秩序の観念が移入された。その書に収録されていた「各国交際」というフレーズをもとに造語されたもの。
先端/尖端(せんたん)
―流行しているものの中でも特に目新しいところを表す意味として「モダン」という言葉が流行った昭和初期ごろに使われるようになった。
地球(ちきゅう)
―日本国語大辞典によると、戦国時代イタリアの宣教師マテーオ・リッチが明(みん)で布教する際に作ったとされる。江戸時代に日本に伝わり、多くの蘭学書で用いられたという。確認される最も古い文献は前野良沢の『管蠡秘言』。リッチはほかにも「熱帯」の作者という。
魅力(みりょく)・魅惑(みわく)・魅了(みりょう)
―「魅」はもともと「ばけもの・もののけ」の意味。そこに「人の心を引き付ける」という意味を持たせたのは江戸以降とみられる。『忠臣水滸伝』(1799~1801)前・五回に「汝前生の作業奸詐を事とし、もっぱら良家の子弟をして魅惑せしめ」、谷崎潤一郎著『秘密』(1911)に「如何にも生き生きとした妖女の魅力に気圧されて」との用例がある(以上日本国語大辞典から引用)。また「魅了」はそれよりも定着が遅く、久保田万太郎著『春泥』(1928)に「いままで嫌ひでさうした『書生芝居』をみなかった人たちをさへ魅了するものがあった」との用例がある。
五.重箱読み(音訓読み)
縁側(エンがわ)
―飛鳥時代の建築物から縁側はあるため日本語はかなり古くからあったと思うが、「縁側」で使われているのは『別れ霜』(樋口一葉、1892)「眼覚れば縁側(エンガハ)の雨戸一枚はづれて並べし床はもぬけの殻なり」が初出か。
円高(エンだか)
―
絵筆(エふで)
―
額縁(ガクぶち)
―
客間(キャクま)
―
碁石(ゴいし)
―
残高(ザンだか)
―
仕事(シごと)
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台所(ダイどころ)
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団子(ダンご)
―
天窓(テンまど)
―
番組(バンぐみ)
―
本棚(ホンだな)
―
本物(ホンもの)
―
本屋(ホンや)
―
毎朝(マイあさ)
―
役場(ヤクば)
―
気軽(キがる)
―
六.湯桶読み(訓音読み)
相性(あいショウ)
―『犬子集』(1633)に「水と火の相性もよき蛍かな〈望一〉」 の句があることから江戸期には既に使われていた言葉。
雨具(あまグ)
―
株券(かぶケン)
―
金具(かなグ)
―
切符(きっプ)
―
消印(けしイン)
―
手帳(てチョウ)
―
手本(てホン)
―
荷物(にモツ)
―
野宿(のジュク)
―
場所(ばショ)
―
豚肉(ぶたニク)
―
夕刊(ゆうカン)
―
枠内(わくナイ)
―
喪中(もチュウ)
―
七.熟字訓
素人(しろうと)
― あることに未熟な人。職人の対義語。「しらひと」の変化した語で『風姿花伝』にあることから室町時代には使われていた。これに「素人」の字をあてたのは江戸期か。『浮世風呂』(1809~13)二・下に「医者さまの方じゃア、代脉でも承知だらうが、素人(しろうと)の目からは安堵しねへものよ」とある(日国)。中国でも使われている。
寿司(すし)
―日本の食文化の代表的なすしの歴史は古く「酸し」「鮨」「鮓」などと書かれるが、「寿司」の字があてられたのは一番遅く、江戸後期以降と思われる。夏目漱石の『木下杢太郎『唐草表紙』序』(1915)に「河岸の寿司屋やとか、通りの丸花とか、乃至ないしは坊間の音曲など丈だけが道具になっている」、また二葉亭四迷の『浮雲』(1887~89)に「如何な真似をした上句、寿司などを取寄せて奢散らす」(日国)とある。ちなみに中国ですしは「鮨」でも「鮓」でもなく「寿司」。
凸凹(でこぼこ)
―凹凸(おうとつ)。凹、凸ともに漢音で、それぞれ「ぼこ」「でこ」の読みはないため熟字訓。凸凹(とつおう)を江戸化政期には「でくぼく」と読むようになり、さらに「でこぼこ」と変化したか。